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広島大学文化サークル連合の公式オンラインジャーナルです。

Skipシティ国際Dシネマ映画祭2024『私たちのストライキ』(ネシム・チカムイ監督)

2024年7月14日から24日にかけて、スクリーン上映およびオンライン配信形式で開催されたSkipシティ国際Dシネマ映画祭2024が幕を閉じた(そのうち1作品のレビューについては、前記事を参照)。本記事では、国際コンペティション部門から専門記者がもう一作品をピックアップしてレポートしたものをお届けする。本作品は、惜しくも受賞には届かなかったが、それでも現在の格差社会の現状を痛烈に映し出す重要な作品であることは間違いない。(編集部注)

 

 

2024年7月に埼玉県川口市で行われたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映された、ネシム・チカムイ監督の『私たちのストライキ』(邦題)についてレポートする。

2024年8月4日現在、開催中のパリ夏季五輪ではアスリートたちの活躍が盛り上がりを見せており、連日大手マスコミの報道の過熱ぶりはその強さをより明快な形で示していると言えよう。一方で、開会式のダンサーたちは報酬格差の是正を求め、空港職員たちはボーナスの増額を求めてストライキを通告した。オリンピックを支えているのは彼ら彼女らの労働であり、フランスにおける労働者の待遇改善と権利に焦点を当てた本作は無視できない存在だ。

本作品では、高級ホテルで客室係として働く、年齢やバックグラウンドの異なる女性たちが正規雇用、労働条件、職場環境の改善を求めてストライキを行う様子が描かれる。彼女たちの置かれた環境は、派遣業者とホテルとの板挟み、警察による取り締まり、そして交渉そのものによって職そのものや住まいを失う可能性など、非常に深刻なものだ。

 

『私たちのストライキ』(ネシム・チカムイ監督)

フランスでの労働者の闘争の歴史を振り返ると、1800年代後半に制定されたオリヴィエ法やワルデック・ルソー法によって労働組合や労働者の権利が認められてから、早くも200年が経過した。近年も2018年の燃料税引き上げに対する黄色いベスト運動や、2024年の国際女性デーでのフェミニスト・デモがおこるなど、現在に至るまで様々な社会課題に対してこれまでに幾度となく、さまざまな場所でストライキが行われてきた。筆者が過去にフランスを訪れた際も、市庁舎前で大規模なストライキデモが行われていた。

ストライキデモが行われていたフランス市庁舎前での写真:筆者撮影)

しかし、労働者の求める権利や改善が完全に認められる事例は必ずしも多くなく、実情としては数年に及ぶものや、志半ばで苦渋の決断を強いられるものも存在する。本作品では、その一例としてCGT(フランス労働総同盟)との長きにわたる連帯関係が描かれているが、フランス最大規模の労働組合との連帯関係をもってしても権利の獲得には時間を要し、労働者の主張が完全な形で通ったわけではないのだ。

 

映画史を振り返ってみると、このようなストライキを題材にした映画は数多く存在する。その中で、たとえばセルゲイ・M・エイゼンシュテイン監督の『ストライキ』(1925年)などに見られるように、多くの映画作品では支配階級と労働者階級の闘争における暴力性を描いたものが多かったりする。だが、ネシム・チカムイ監督は本作において、実際に22ヶ月という長期に及ぶストライキとホテル側との交渉をファッションショーという形で成功させた事例を題材にする。そうすることで、登場人物の苦悩はもちろん、自分たちの権利を主張していく姿をコメディタッチで描くことが可能になったと言える(ただ、単なるコメディだけではないことに注意は必要だ。階級闘争は、権力者との真摯な対立にこそ勝利は見えるからである。労働者である彼女たちは、その規範(流れ)から決して反動的に逸脱することはない)。シリアスなテーマであるストライキを多くの人に届けるために、爽快に描いているのは監督の意志に他ならない。

 

自由(Liberté)、平等(Égalité)、友愛(Fraternité)を謳うフランスにおいて、スポーツの祭典が行われている今こそ、それを支えている人々の存在を忘れてはならない。

 

(黒木:映画批評)